文豪を引き寄せる魔力 鳥羽の港町(みなとまち)文化

鳥羽が生んだ名作として三島由紀夫の「潮騒」はあまりにも有名ですが、鳥羽と縁のある作家は三島だけではありません。その代表として江戸川乱歩がいます。三重県名張市に生まれた乱歩は大正5年から1年ほど、鳥羽市の造船所で働いていました。後に妻となる坂手島出身の隆と出会ったのもこの時でした。鳥羽が乱歩に与えた影響はその作品によく表れています。例えば、「パノラマ島奇譚」は明らかに鳥羽の離島をモデルに描かれています。巨額の富を得た男が小さな島に夢想郷をつくるという物語の発想を乱歩は鳥羽在住に得たと言われています。

その他にも鳥羽での暮らしから着想を得たと思われる作品が多く存在しています。

実際、鳥羽には奇怪で幻想的な乱歩の世界と共通する不思議な場所があります。乱歩と親交のあった民俗学者岩田準一の生家を利用した「江戸川乱歩館〜鳥羽みなとまち文学館〜」は、竹久夢二も含むこの3人の業績や作品を紹介している場所。この地域は、まるで昭和の時代に戻ったような風情のある街です。まるで常世の霊力を使い、歳をとるのをやめた魔法使いのようにこの町は怪しげな雰囲気を放っています。昔、上海は「魔都」と呼ばれていましたが、乱歩はここに「幻都」を見たのかもしれません。タイムスリップしたような、違う世界に迷い込んでしまったような不思議な感覚を味わえる場所なのです。

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